Member’s InterviewNo.0018 小笹 正義

Interview2025.01.08

亀岡発 京料理の魅力を発信し続けるオーナーシェフ

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  • 口丹部会
  • 第20期 入会
  • 京料理 松正
  • 飲食業 料亭

皆さん、こんにちは。いつもオフィシャルサイトをご覧いただき、ありがとうございます。

大津部会、総務委員会委員の重近 弘幸です。

 

今回ご紹介するのは、口丹部会の部会長、小笹 正義(おざさ・まさよし)さん(42)です。

 

京野菜の産地として知られ、「京の台所」とも称される亀岡市で「京料理 松正」(まつしょう)を構える小笹さん。お仕事に対する想いやJOC活動、ご趣味などについてお話を伺いました。

お仕事について

記者:本日はお忙しい中、取材に応じていただきありがとうございます。まずはお仕事について教えてください。

 

小笹:はい、当店は1936年(昭和11年)に京都の西院で仕出し料理屋から始まり、今年で創業88年になります。50年ほど前に亀岡に移り、現在はお庭を眺めながらお座敷で会席料理を食べていただくお店となっています。私で四代目になります。仕出しについては時代の流れで縮小傾向にありますが、今も続けています。また社外の活動としては、京都市と亀岡市で料理教室を開いたり、小学校の家庭科の調理実習の講師として食育事業にも取り組んだりしています。

 

記者:創業88年ですか、素晴らしいですね。お店の特徴を教えてください。

 

小笹:当店は「亀岡の野菜が主役の京料理」をテーマに掲げています。地元の生産者と距離が近く、野菜農家の方とは毎朝お会いしますし、鹿肉や猪肉を扱う猟師の方には直接毛を剥ぐところから見せていただいています。鮎についても、雑誌に掲載されるような有名な釣り師が同級生にいて、取引させていただいています。

 

記者:たくさんの方とのお付き合いがあるんですね。ちなみに、亀岡の野菜で特におすすめの野菜はありますか。

 

小笹:蕪(かぶら)です。当店のすぐ横にも畑がありますが、亀岡は蕪の栽培が盛んです。盆地特有の昼夜の気温差と濃い朝霧が蕪づくりには最適です。また、亀岡市は有機農業の促進に向けた「オーガニックビレッジ宣言」をしており、学校給食に有機野菜を出すなど、次世代へ亀岡の豊かな自然と食を引き継ぐ取り組みをしています。そのおかげで、有機野菜の生産者が多く、当店も何件か取引しています。

記者:地元野菜の美味しさは具体的にどんなところですか。

 

小笹:植物は日が照ると光合成をしますよね。その際、エネルギー源である糖を使いますが、亀岡の冬は深い霧が多く、日照時間が短いので、糖が溜まりやすいんですね。

 

記者:なるほど。以前の事業でも「かめおか霧の芸術祭」など亀岡と霧は関係深いんですね。

 

小笹:あとは、本日(12月20日)もそうですが、冬はとても冷え込みます。

 

記者:確かに、京都市内より少し寒い気が…

 

小笹:気温0度以下になると野菜は自身の水分で凍ってしまいますが、凍らないように夜、自ら糖を作る動きをします。これらが合わさって、亀岡の冬の根菜は甘くなるというわけなんです。当店では、野菜を使う料理には野菜本来の甘味や旨味を生かしています。本日食べていただくお料理も、砂糖やみりんとかデザートでは使いますが、他ではほぼ使っていません。野菜の甘さを感じてみてください。

 

記者:単純に地場の野菜を使うだけでなく、そういう美味しさがあって使われているのですね。

 

小笹:そうですね。

 

記者:先程もお話がありましたが、鹿肉や猪肉もこだわりがあるのでしょうか。

 

小笹:当店で扱っている鹿肉や猪肉については、猟師の方が鉄砲を使わず、罠で仕留めます。その後、生きたまま解体場まで持って帰り、マグロに使うような電気ショッカーを使います。

 

記者:ほうほう。

 

記者:そこからすぐに血抜きをするので、生臭さが全く無いです。鉄砲で打ったからといって、すぐに死ぬわけではなく、打ったあとにのたうち回って死ぬまでの間に時間が経ち、血が回って臭くなるわけです。現に当店の調理場でも、牛や豚、鶏を焼く時と比べて、ジビエを焼くときが一番臭くないです。

 

記者:そうなんですね!

 

小笹:ぜひ、機会がございましたらご賞味ください。

 

記者:あとはお庭がとても立派ですね。おじい様のご趣味だとか。

 

小笹:祖父は調理場にいるか、昼寝しているか、庭仕事をしているか、という姿が多かったと記憶しています。1人でちょこちょこ色々な灯篭とか買ってきて庭仕事をやっていたみたいです。

 

記者:このような立派なお庭を見ながらご飯をいただける場所は中々ないですよね。お客さんは地元の方が多いですか。

 

小笹:すぐ近くにトロッコ列車の駅があるので、お昼は観光客の方が多いですね。特に最近は外国人の方が多いです。夜は接待のお客様が中心です。

記者:イスラム教のハラルにも対応されているとか。

 

小笹:そうですね。時代の流れもあり、ハラルやビーガンにも対応しています。富裕層の方はビーガンの方も多く、ニーズがあります。元々日本には精進料理があるので、その流れで対応が可能です。ハラルについては難しいところもあるので、ホームページに対応できることとできないことを明記しています。

 

記者:そういった新しい取り組みや時代の流れに対応していくのも大事ですね。

 

小笹:大事だと思いますね。京料理の世界は千何百年と続いていますが、一人の料理人のピークは平均して30年と言われています。今まで料理人一人一人が繋いでいった結果、現代まで続いています。そうした中、最近は環境問題や生態系の問題にも気をつける料理人が増えてきました。ビーガンやハラルの対応もその一環だと思っています。

 

記者:お料理はご両親やおじい様から習われたのでしょうか。

 

小笹:私自身は京都府立山城高校を卒業後、料理の専門学校へ行き、基礎を学びました。卒業後は京都市中京区の「木乃婦」(きのぶ)という京料理のお店で3年間修業しました。当店に来てからは、環境も客層も違うので、父のやり方を学びながら、伝統は継承しつつ、自分のやりたいことや新しいことを取り入れながら日々精進しています。

 

記者:木乃婦さんは有名なお店ですね。3代目の高橋 拓児さんはテレビにもよく出演されていますね。

 

小笹:よく出演されていますね。私の師匠でとても尊敬しています。

 

記者:高橋さんに3年間、しっかり教えていただいたわけですね。

 

小笹:そうですね。今でも師匠から電話がかかってきたら2秒で出ます(笑)

 

記者:笑。もともとお店は継がれるつもりだったのでしょうか。

 

小笹:小学校から高校までずっと野球部で、実は将来は中学校の教師になりたいと思っていました。野球部の顧問になり、母校に選手を送り込むことがしたかったんです。しかしながら、幼少期から祖父に継ぐように育てられ、気が付いたらそのレールに乗っていたという感じですね笑。

 

記者:お店に戻られてから20年ほどになると思いますが、振り返ってみて、1番変化したところは何でしょうか。

 

小笹:業界でいうと、和食は世界の料理だと認められ、海外のシェフとの交流が盛んになりました。昔は門外不出というイメージだったのですが、今では日本と海外のシェフがお互いのスペシャリテを教え合うこともしています。また当店でいうと、昔は量が重要でした。お客様が食べ終わった後に料理が残っているくらいの量でないといけない、という風潮がありました。しかし今は環境的な問題もありますが、食べ残しがゼロになるような量にするべきだという風潮です。

記者:なるほど、日々お仕事をされる上で心掛けていらっしゃることはありますか。

 

小笹:体調管理ですね。この仕事は体が資本です。朝7時から夜10時頃までずっと立って動くという肉体労働なので、早寝早起きを心掛けています。飲み会でも二次会は行きません。来て下さったお客様に対し、前日二次会に行って疲れて、モチベーションが下がった状態で作った料理を出したくないという気持ちが強いです。そういったところは師匠に教わりました。

 

記者:業界の悩みで人手不足とお聞きしました。

 

小笹:そうですね。人手不足は課題です。京料理を学ぼうと、専門学校に毎年120名ほどの生徒さんが入学してきますが、卒業後、亀岡に来てくれる人は非常に少ないです。先程、教師になるのが夢だったと言いましたが、専門学校の非常勤講師もさせていただいており、その時の生徒さんが今、当店で働いてくれています。しかしながら、その人ももう少しで巣立っていく予定です。それが今の悩みです。

 

記者:お店の将来的なビジョンはありますか。

 

小笹:地域の方から「亀岡に松正があって良かった」と思われるようなお店を目指したいです。地域に貢献していきたいと考え、積極的に地域の神社や自治会の役などを引き受けています。

 

JOC活動について

記者:JOCに入られたきっかけを教えてください。

 

小笹:当時の担当者と支店長の勧めで入会しました。JOC入会前の話ですが、当店には「料亭のだし巻き玉子サンドイッチ」という商品がありまして、京都信用金庫さんのバイヤーマッチングに出したところ、11社と商談が成功しました。その後、瞬く間に日本中のデパートに当店の商品が広まりました。

記者:京信フェスでも出店されていましたよね。

 

小笹:はい、それがコロナ禍前だったのですが、そのおかげでコロナを乗り切ることができました。実はJOCのことは20代の頃、商工会議所の青年部に入った時に同じ会員さんから教えていただき、サンドイッチのこともあって、入会することにしました。今期の部会長の話が来た時も快く引き受けました。

 

記者:JOCに入会されて学ぶことが多いとおっしゃっていましたが、具体的にどういったところでしょうか。

 

小笹:JOCの前にいくつかの団体に所属しているのですが、JOCの第一印象は「紳士的」ということですね。JOCの研修内容は、他の団体と比べても性質が違うので学びやすいです。研修を受けて、次の日から試してみることができるという風に感じています。

 

記者:印象深い事業はありますか。

 

小笹:第20期に京信ホールで開催された事業で、バランスシートを読み解くという事業です。その事業を受けて、「自分が学びたかったのはこれだ!」と確信しました。高校までは野球、その後はずっと料理しかしてこなかったので、どうやって経営していけばいいのかと考えていた時にその事業が開催されました。自分にとってのターニングポイントになり、そこから興味がある事業に行くようになりました。

 

記者:具体的にどのような内容に興味がありますか。

 

小笹:入会当時は今申し上げた決算書の読み解き方のような内容に一番興味がありました。

 

記者:来期以降はどういった形でJOCに関わっていきたいとお考えでしょうか。

 

小笹:今期は部会長として本部と関わりを持てたので、人手不足の問題がなければ本部に行ってみたいという気持ちもあります。できる範囲で関わっていけたらと考えています。

 

記者:JOC会員で今期監査幹事を務めた二傳株式会社(京都市中京区)の山田晃弘さんと親しくされているとか。

小笹:当店が元々西院で創業し、開店していたということもあり、祖父同士は知り合いだったと思います。今期、同じタイミングで部会長になり、同業種ということもあって仲良くなりました。大丸京都店の地下で、京都の銘店が集うテイクアウト専門店「モザイク」というショップがあるのですが、そこで一緒にお仕事をさせていただいています。

 

記者:同業種の方はもちろん、異業種の方とも交流できるのもJOCの魅力ですよね。

 

小笹:そうですね。普段お会いできないような大きな規模の会社のカリスマ性がある方や、同業種、異業種含め、いろいろな方々と交流できるので、そういったところが楽しいです。

 

記者:今期、口丹部会の部会長をされてどうでしたか。

 

小笹:まずは本部と関わりを持つことができてとても楽しかったです。また、部会の会員が他団体で昔からよく知っているメンバーということもあり、適切なアドバイスをもらいながら、自由に楽しく運営させていただきました。とても感謝しています。

 

記者:口丹部会の事業としてはどのような事業を開催されましたか?

 

小笹:労務関係の事業になりますが、たまたまですが、先日、ちょうど人手不足で悩んでいた頃がありました。そのときにパートでもアルバイトでもない「複業人材」というテーマで研修事業を企画させていただきました。必要だと思うテーマを良いタイミングで事業として企画させていただき、自身も受けさせていただいていると感じています。

 

趣味や休日の過ごし方について

記者:普段はご自宅で料理はされるのですか?

 

小笹:ワインが好きなので、家でもフランス料理を作りますね。ワインは高いものではなく、千円くらいで購入できるものとそれに合う料理を研究して作ります。YouTubeでフレンチのシェフが作るのを参考にしています。

 

記者:ワインは何がお好きですか。

 

小笹:スッキリした飲みやすいワインが好きです。今は日本酒にも凝っています。あと、最近はオーケストラに興味があります。まだ知識はゼロですが、起承転結があったり、歴史や文化や宗教が関係したりしているところに料理と共通しているなと感じて、勉強しようかなと思っています。

 

記者:芸術的な感性をお持ちなんですね。さきほど、YouTubeでフレンチのシェフを参考にしているとおっしゃっていましたが、料理の技法など、通ずるところがあるのでしょうか。

 

小笹:技法は違うのですが、日本料理に取り入れられないか日々研究しています。最近は焼き台でなく、フライパンを使うことも増えました。また、フレンチにはピュレというのがあります。日本料理では「すりながし」と言いますが、見た目は一緒なのに、何が違うのかということを追究したりしています。そういうのが面白いですね。

 

記者:探求心が旺盛ですね。

 

小笹:当店の従業員にも料理ばかりで疲れないですかと質問されることもありますが、全然疲れません。面白くて仕方がないです。好きなことをしているので、ストレスはたまったことがないです。

 

パーソナルな部分について

記者:小笹さん個人のことを教えてください。学生時代はずっと野球をされていたんですか?

 

小笹:小学校から高校までずっと野球をやっていました。幼少期から祖父に甘やかされて育ったのですが、高校野球では生きていく上で大事なことを学びました。当たり前のことですが、例えば挨拶をするとか、靴は脱いだら揃える、といったことです。そのおかげで木乃婦での修業時代も全然辛くなかったです。

記者:ポジションはどこを守られていたんですか?

 

小笹:キャッチャーです。

 

記者:要のポジションですね。

 

小笹:最後の春まではキャッチャーだったのですが、顧問の先生から「小笹の考えていることは相手に分かってしまう」と言われ、サードの選手と交代させられました。顔に出てたんでしょうね。でもその時の経験があったおかげで、今ではピンチを向かえても想定の範囲内と思って、冷静に対応できるようになりました。

記者:JOCの会員で高校野球をされていた方は結構いらっしゃいますね。

 

小笹:先日、洛南部会の辻本裕哉さんにお会いした時は感動しましたね。

※辻本さんは、1997年夏の甲子園でエース川口知哉投手を擁し、準優勝した平安高校のレギュラーメンバー。3番ファーストとして活躍されました。詳しくはこちらで。

小笹:実は中学三年の夏、高校野球をやるかどうか迷っていました。でもテレビで地元京都の平安高校がどんどん勝ち進んでいく様子を観て、高校野球をやろうと決意しました。

 

記者:繋がっていますね。

 

最後に

記者:オフィシャルサイトをご覧の方々へ何か伝えておきたいことはありますか。

 

小笹:今までお話した通り、まだ42年しか生きていませんが、いろいろな人と出会うことができ、いろいろなところでターニングポイントがあったりして、今の自分を形成しているなと感じています。例えば60歳になって昔を振り返った時に、JOCでこの人に出会えたからだとか、この時にこの経験ができたから今の自分がある、と思えるような貴重な経験ができる会だと思います。現在、店の経営と口丹部会の部会長を両立しながら、忙しい日々ですが、高校時代の恩師の「暇(時間)は自分で作るものや」という言葉を胸に、今後も交流と研鑚を重ねていきたいと思っています。

 

まとめ

時節柄、ご多用のところでしたが、お仕事に対する熱い想いやJOC、またご自身のことについて、終始にこやかに語っていただきました。このインタビューの後、総務委員会の忘年会を同店で開催させていただきました。亀岡の野菜はどれも美味しく、小笹さんがおっしゃる通り、素材本来の甘みを感じることができました。

 

是非一度、「京料理 松正」で亀岡の野菜やジビエをご賞味ください。

 

 

京料理 松正

住所:〒621-0826 京都府亀岡市篠町篠上北裏91-1

(JR嵯峨野線 馬堀駅 徒歩12分)

TEL 0771-24-0567

HP: http://matsusyo.jp/

営業時間:11:00~14:00、 17:00~20:00

定休日:水曜日

 

総務委員会取材チーム

 

リーダー・インタビュアー   山下  徹(長岡部会)

 

インタビュアー        吉田 将史(口丹部会)

 

撮影・アシスタント       林 良輔(大津部会)

 

記事作成            重近 弘幸(大津部会)

 

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