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2021.08.18

~想いを次世代に~ 温故知新を繋ぐ古美術師

今回のスポットライトは、京都祇園で100 年以上続く老舗の書画専門店「山添天香堂」さんにお伺いしました。

1904年創業の掛け軸や屏風など近世を中心とした書画専門の古美術店です

看板の文字は書家で創業者の 山添 徳次郎 (会員の曽祖父)様が書かれたものが現在も残っています

明治時代末に八坂神社の側で創業され、二代目 山添治 様が戦争から帰ってきてからは現住所に移転(以降70年)されました

 

プロフィール

部会・会員名          河原町部会   山添 亮 さん

会 社 名          山添天香堂有限会社

所 在 地        京都市東山区大和大路三条下ル元町371

創  業         1904年

企業HP          http://yamazoetenkodo.co.jp/

出 身 地        滋賀県大津市比叡平

趣  味         料理、人と人やものを繋げること

休日の過ごし方      子どもと遊ぶ

過去に経験したスポーツ  野球、吹奏楽

座右の銘        「かわいそうな私」や「あの人が悪い」などとは考えず、

「これからどうするか」にフォーカスする

—いつ家業に戻られたのですか?

27歳のころです

もともとは家業をやるつもりはなかったんです

学生時代からなんとなくいつか“社長”になりたいという気持ちをもってはいたのですが、

普通に就職活動をし、食品卸の会社に内定もいただきました。

しかし、その報告を就職活動の相談に乗ってもらっていた先輩にしたところ

「君の就職する会社の規模からすると5年後の給料はこれくらい、10年後には役職がこれくらいで給料はこの程度。君はそういった人生を今から歩もうとしているんだけど、これで本当にいいの?」と言ってもらい、

仕事選びというのはその後の人生を選ぶことであり、「今が人生を決めるタイミング」なんだと、その時に気づかされました。

そしてその方の「いつか“社長”になりたいという気持ちがあるなら、大きな企業で歯車の一つとして働くよりも、小さな会社で色々な仕事を経験する方が将来のためにもなると思うよ」と仰ったことに得心し、家業に入ることを決意しました

家業に入ることを決めたものの、古美術店で自分ができることは何もありません

一体何をすれば両親二人の経営する会社の役に立てるのかを考えました

父は作品の価値がわかる、長年の経験で鍛えられたいわゆる「目利き」ですが

当時外国人のお客様が多数来店されていたのに、両親は二人とも英語が話せない

もし私が英語を話すことができたら、きっと売上を今よりも上げることができるはずだと考え、すぐに家業に入らずバイトをしてお金を貯めて、英語を勉強するためにワーキングホリデーでカナダに行きました

カナダでは語学学校に通った後、南米から輸入したマグロを日本料理店にデリバリーをする魚屋で働いていました

日本料理店といっても働いているほとんどは中国人か韓国人です。会話ややり取りは当然全部英語ですから英語の勉強になることはもちろんなのですが、海外で働くということもとても良い経験になりました。

マグロ屋だっただけにお昼ご飯は毎日鉄火丼ばかり食べてました(笑)そのとき南米のマグロの美味しさも知りました

そして2年間のカナダ生活を経て帰国し、家業に入りました

—お客様はどんな方ですか?

いわゆる常連のお客様は、美術館や博物館の学芸員、大学の先生や古美術の研究者の方々です

美術館や博物館というのは作品を展示するだけでなく、その収集方針にあったコレクションを増やすこともその役割とされているので、方針に合った作品があれば購入されます。

そして研究者の方々は作品を研究し、論文書くことを務めとされていますので、新しい研究材料をいつも探されています。

どんなものをお探しかを聞いて、古美術品市場で探す。これが当店の仕事です。

よく商品はどこで仕入れるのですか?と尋ねられますが、

仕入先は大きく2つあり

1つは一般のお宅で持っているものを買取させていただく

2つ目は古美術品市場です

—古美術品市場には偽物や価格ふっかけ等はないのですか?

あります あります(笑)

古美術品市場に出てくるものは本物偽物の区別は全くされないんです

市場に出入りできるのは免許を持ったプロだけですし、本物と偽物の玉石混合の中から自分の目を信じて買うしかありません。

例えふっかけられたとしても、作品にそれ以上の価値があるなら問題ないです。

本物か偽物、そしてその作品の価値もわからないといけないのでこの仕事は大変です。

買った後にはそれが本物かどうか詳細に調べた上で店頭に並べています

—鑑定書が欲しいお客様にはどうされますか?

 明治期以降の主要作家でしたら所定の鑑定機関から鑑定書が発行されますが、江戸時代の作品にはその様な機関がありません。

ですので、一般的に江戸時代以前の古い作品に関しては展覧会図録や出版物に掲載されていれば、それを鑑定書の代わりにすることがあります。

その他、当店でお買い上げされたお客様からご要望があった場合は「当店が鑑定しました」と一筆書かせていただくことがあります。

—どういったことで作品の価値が決まるのですか?

作品の市場価値は作家、時代、歴史的意義がどれくらいあるかで変わります

例えば、伊達政宗の手紙といっても、宛先がわからない手紙よりも

豊臣秀吉宛の手紙の方が価値が高いです。

さらにいうと、経済と美術品は関わりが強いため、景気の動向でも市場価値は変化します。例えば中国経済の大きな成長で、これまで日本美術に比べても低価格だった中国美術の価格が大幅に上がりました。

香港のオークションで実際にある有名作家の掛け軸が50億円で落札されたのを見たこともあります

1声あげるごとに1億円以上値が上がってました(笑)

—BtoCは?

店でのお客様への販売です

—BtoBは?

美術館等の機関への販売です

もう一つは士業や遺品整理などの整理業の方と仕事をすることがあります。

当店は販売以外に鑑定や買取も行いますので

評価出しや買取など相続に関する内容で士業の方から依頼があったり、

遺品整理などの整理業の方には回収された古美術品を売却するためのアドバイスやサポートをしています

特に相続に関わる仕事は、先祖から伝わったものを二束三文で手放すわけにもいかないし、後世にもきちんとした形で残したいと思われている方が大勢いらっしゃるので、その役目は特に重要だと考えています

—山添さんのミッションは?

1番は古くから現代まで残っている古美術品を次世代につなぐこと

私の役目は現代まで残されたものを次の世代のオーナー様につなぐ「ハブ」になることです

今まで大切に残されてきた物がぞんざいに扱われ、捨てられたりしないように、それを救い上げて次の世代につなぐこと、それが私の仕事だと考えてます

何十年何百年ときれいな状態で残っていることは日本人にとっては普通なんですが外国人はびっくりされます。その価値をもっと多くの日本人にも知ってもらいたいですね。

—仕事の特徴や課題は?

どの商品も1点ものなので、今はやりのサブスクのような継続課金型販売システムを作ることが難しいことです

それだけに一点当たりの利幅を増やさないといけないですし、そのためには価値が高く高値がつけられる希少品を仕入れることが商売上重要になります

しかし、希少品というだけに当然簡単には見つからないですし、見つかったとしても同業他社も探しているので仕入れが高くなり、思うように利幅が取れないのが現状です

そこで今特に力を入れているのが売却サポート事業です。

古美術品を売りたいと思っている方のサポートをし、成立させることで手数料を頂くというモデルです。

この事業の鍵は売りたい方をどうやって見つけるかなのですが、士業の方や遺品整理業の方といった定期的に売却依頼人につながる方とビジネスパートナーになることで、安定したフローを確保できると考えています。

これまで100年以上にわたる古美術業界での経験を元に、依頼された品物をできるだけ高く売却できるようにサポートします。そうすることで、依頼人の方、ビジネスパートナー、そして当店と「三方良し」の関係を長期に築いていけるシステム作りを目指しています。

—今後の展望は?

1つは、世界70カ国以上に広がる紹介マーケティングのグループにいるので、そこに所属する日本全国の士業や遺品整理業の方とビジネスパートナーとして提携することです

もう1つは、販売を広げるために古美術ファンを増やしたいと思っていてメルマガを月に2回配信しているのですが、その登録者を今の10倍くらいにしたいと考えています

(メルマガ 天香堂通信)

http://yamazoetenkodo.co.jp/lp_new_7/

—変えてはいけないものは?

現在代表は弟に移り、僕は裏方をやっています書画専門であることを今のまま残していけばいいと考えています。

ビジネス自体がシンプルなので、書画専門であることを崩さなければ、その他に気を付けないといけないことはあまりないかなぁ

—一貫していることは?

 嘘をつかないことです

なぜ当店で商品を買ってもらえるのか?

それは商品というよりも私という「人」を買ってもらっている

厳密にいうと本物かどうか保証できないものを売っているので、

「山添さんが言うなら買う」「山添さんが言うなら本物でしょう」

という想いで買っていただけていると思っています

気さくでどんな質問にも真剣にお答えいただける山添さん

ご自身の役目を次世代に繋ぐハブであると仰られる姿勢に、事業に対する誠意が大いに伝わりました

 

記事編集  スポットライト委員会  高橋 宏

※本記事は、各会員が、思い思いに書いておりますので、京信ジュニア・オーナー・クラブの正式見解ではありません。