Member’s InterviewNo.005 木ノ下稔

Interview2023.11.30

変わらないけど、変わり続ける

kinoshita minoru

  • 東九部会
  • 22期 入会
  • 株式会社甘春堂本舗
  • 製造&小売業 和菓子の製造・販売業

みなさまこんにちは。西陣・北野部会、総務委員会の竹村です。

今回ご紹介させていただくのは『株式会社甘春堂本舗』取締役社長、東九部会所属の木ノ下 稔さんです。

 

お仕事について

記者:本日はお忙しい中取材対応していただきありがとうございます。まずはお仕事について具体的にお教えいただけますでしょうか?

木ノ下:弊社は和菓子の製造、販売を主に行っております。お茶席用の茶席菓子を中心に、 京都の観光地に店を構えております。また、観光客の方向けのお土産なども販売しており、さらに最近は和菓子作りの体験教室も行っております。修学旅行生や企業研修、珍しいところだと街コンなどのイベントでも利用して頂いております。

*本店、東店、嵯峨野店と全て観光地の付近で営んでいらっしゃいます。

https://www.kanshundo.co.jp/store/

 

記者:和菓子は食べることだけで作ることはなかなかできないので貴重な体験ですね。可能であれば後ほど体験させていただきたいです!

 

木ノ下:ぜひ体験してみてください。あとはOEMも行っていて、東本願寺さんで販売しているお饅頭も製造しています。すべて手作りなので大きいロットは対応が難しいですが、そのロット帯で対応出来る規模のOEM先が意外に無かったりするので、そこが一番の強みと考えています。

 

記者:観光客に向けた事業が多い、とのことですがコロナ期間はやはり大変でしたか?

 

木ノ下:はい、コロナの時期は売上が9割減でした。1日の売り上げが400円の日もありましたよ。お店は緊急事態宣言下は閉めていました。お店を開けるか・開けないか様々な葛藤がありましたが、閉めたのは一ヵ月だけで他はほぼ開けていました。

 

記者:それは大変でしたね…今はコロナ前の水準にもどっているのでしょうか?

 

木ノ下:中国からの観光客がすべて帰ってこられていませんのでまだ8割ぐらいでしょうか。

 

記者:ありがとうございます。次にお店の特徴をお聞かせください。

 

木ノ下:この業界は伝統産業と呼ばれております。伝統産業は守り続けるだけでは絶対ダメです。よく革新2割 ・伝統8割と言われていております。ただ、伝統産業と対極にあるベンチャー企業は、攻めるのが9割・10割で、守るのは1割程度なんです。我々も守り続けているだけでは廃れていくので、「どこか変えなあかん」というところが重要になってきます。そこで当店の特徴ですが、『らしさ』というところを重要視しています。『変わらないけど、変わり続ける』というところが非常に重要と考えています。

 

記者:なるほど。変わらないけど、変わり続ける。

 

木ノ下:わかりやすく言うと、「同じようなラーメン」を提供してるのに「潰れない店」・「潰れる店」の違いが生まれます。これはなぜかというと、「潰れないお店」はお客様がわからない程度の加減で味を変えているんです。和菓子の業界でも同じで、昔はもっともっと甘かったのをちょっとずつ薄くしていくんです。ただ、極端に薄くすると、「味が変わった」と感じ、お客様が離れるんです。要は味の変化がわからない程度の誤差でやっていくのが 「私らのらしさ」です。だから、お客様にあそこはいつ行っても同じ味がする…と思われつつも、実際は変わっているんです。

 

記者:非常にわかりやすい例えをありがとうございます。

 

木ノ下:昔と比べると、仕入れの材料など何から何まで変わっているんですが、お客様には悟らせないような「さじ加減」が私たち老舗に求められているんです。新しい材料を使って新しい味を出すのは簡単なんです。「味を薄くしたいなら砂糖を半分したらええやん」「洋菓子風にしたいなら、生クリームやバター入れたらええやん・レーズン入れたらええやん」となるんですよ。変わらないことを維持しつつも、少しずつお客様にわからないように変わり続けるというのが老舗の難しさだと考えます。

 

 

記者:面白いお話しですね!昔にはない新しい材料なんかも色々とあると思いますがそこは変えませんか?

 

木ノ下:和菓子は材料で劇的に変わるっていうよりも、配合なんですよね。「砂糖は変えないけど、割合を変える」ということはあります。メインとしてはお砂糖や穀物の粉などを使いますが、穀物の粉も昔に比べて様々な種類のものが増えてきています。その様々な種類のものから、産地を変えてみたり、AとBの粉をブレンドしてみたりなどしていきます。ただ、「私らのらしさ」を追求していく上で、なんでもかんでも変えていいかというと、そこはやっぱり違うんです。食べ物商売ですから、ここを変えると味が変わるっていうラインがあるんです。例えば、当店の「つぶあん」は、丹波の大納言しか使いません。これは創業からずっと変わってないと聞いています。

 

記者:創業からずっと変わってないんですか!すごいですね。

 

木ノ下:それはなぜか。過去に一度変えたことがあります。丹波の小豆が手に入らず、不作も影響して高騰している中で、北海道の小豆がすごく安かったのが理由です。企業を経営している中で、コストダウンに走るあまり、安い材料を使いたいと思い手を出してみたんですが、やはりどうひっくり返っても丹波の小豆にはなりませんでした。勿論これは北海道の小豆があかんということではないです。北海道の小豆は美味しいんですが、味が違う。先ほどもお話ししたように「これを変えたらあそこは味が変わった」って言われるわけなんです。だからここは変えたらいけないんです。

 

記者:難しいところですが、非常に勉強になるお話です。他にアピールしたいことなどはありますか?

 

木ノ下:先ほどご紹介した和菓子の体験教室、また『大仏餅』と『貝合わせ』はテレビ取材などをよくお受けします。中でも『大仏餅』は400年前からあり、味は変わっていますが製法は全く変わっていません。最近の餅は求肥になっていることが多いですが、うちは餅を使用しています。求肥を使うと柔らかく伸びるけど腰がない。『大仏餅』は食べた時の食感もしっかり歯ごたえがあります。

 

 

記者:ちなみにその伝統をつなぐ職人さんは何人ほどいらっしゃるのですか?また職人と言われるプロとそうでない方の違いはどこでしょうか?

 

木ノ下:基本的には現在は職人は4人です。あと見習いの子が3人。父である会長が昔から「プロは、1個作るのも100個作るのも、同じものを作るのがプロ。1個作って100個全部バラバラではだめ。プロはそういう仕事をせなあかんし、そういう商品を店に出さなあかんねん」と言っています。

 

記者:厳しい世界ですね。職人になるにはどれほどの期間が必要ですか?

 

木ノ下:その質問はよく言われるんですけれど、現代社会の普通の方は職人になれないです。まず、初めが違っています。教えてもらおうと思っている人というのは、職人にはなれないです。職人は、基本的に学び盗むんです。だから、手取り足取り教えてもらってやってるうちは、絶対に職人になれないです。人の仕事が自分の仕事に生かせるようにならないと、職人になれない。一見関係ない大工さんの仕事が、職人の中では関係あったりします。他の仕事をよく見ていたら「こういう丁寧な仕事をするのか」「自分たちもこういう仕事をせなあかんな」と関連するところがあるんです。昔と今では働き方も違いますし、昔は労働時間なんかには守られていませんでした。現代でも、一所懸命寝る間を惜しんで仕事だけしていれば3~4年でなれるかもしれない。だからといって今そうすべきだとは全く思っていませんが、現代ではそこまで情熱を持っている人がいるか?というとなかなか難しいですね。

 

*こちら、お菓子で出来ているそうです。すごい!!

 

木ノ下さんってどんな人?

今度は木ノ下さんのパーソナルな部分についてお伺いします。

記者:お仕事以外でハマっていることや趣味があれば教えてください。

 

木ノ下:趣味ですね。元々仕事=趣味の人なんで、遊ぶ予定がなかったら基本的に仕事しています。昔よく大学の先輩に言われたのが、「世の中でやりたいこと」と「できること」と「したいこと」っていう3つの方向性があって、 この3つが同じ方向の人は毎日とても楽しく過ごせる。でも、大多数の人達はどれかがずれて「やりたいことはこれだがそれはやらせてもらえない」または「やりたいことがあるけれど、それは自分の実力ではできない」みたいになる。どれかがずれていると、仕事に対しての感情がイマイチになるところが、僕の場合はそれがたまたま上手いこと嚙み合っています。

コンピュータ専攻のプログラマーで、大学を卒業してからIT企業に就職しました。同世代の方はご存じかと思いますが、ドコモのiモードのメールの管理ソフトウェアのプログラム開発をしていたんです。そこから家業を継ぐことで、最先端のITを捨てたわけなんです。それでも方向性が嚙み合っていると言えるのが、今のお菓子作りもプログラミングも同じで、ものづくりが元々好きだったということです。

 

記者:一見違うことのようで、ものづくりという観点では同じなんですね。休日はどのように過ごされていますか?また座右の銘などはありますか?

 

木ノ下:ちょっとホッとできる時間があれば、家族と旅行に行きますね。座右の銘として自分に言い聞かせているのは、「人間万事塞翁が馬」で、明日が何かわからないし今したいことをすべきだと周りに伝えています。例えば仮に1ヶ月後自分が死ぬとしても、1週間後死ぬとしても、自分が熱中できるもの、したいと思えるようなことをするべきだと思っています。

一時期、YouTuberの方が「好きを仕事にする」みたいなことを言っていたけれど、あれは真理の1つかなと思っています。私らの所謂職人と呼ばれている人たちや、技術者と呼ばれている人たちは少なくとも自分の仕事が好きです。好きだからこそ突き詰められるし、好きだからこそ一生懸命考えられる。嫌いだったらやる気にならないですよ。好きだからこそお客さんの期待に応えたいと思うし、好きだからこそお客さんが満足する以上のものを返したいと思いますね。

*人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)

一見、不運に思えたことが幸運につながったり、その逆だったりすることのたとえ。幸運か不運かは容易に判断しがたい、ということ。

 

JOCについて

記者:JOCに入会されたきっかけをお聞かせください。

 

木ノ下:JOC卒業生の山一パン総本店の山本さんのご紹介で入会させていただきました。

 

記者:JOCに入ってよかった点はどのようなことだと考えておられますか?

 

木ノ下:やっぱり1番大きいのは異業種の経営者の方とお話しできるところだと思います。たとえば和菓子組合だと同業種なので話の幅が広がりづらいです。また、同じお菓子屋さんなので一部ライバルであったりとか、一部仲間であったりとか、非常に立ち位置が難しいところもありました。その点JOCは新たな交流が生まれてたくさん勉強になります。

木ノ下さんは現在、例会委員会で活動されています。来年の二月に開催される予定の本部例会での木ノ下さんのご活躍を楽しみにしております。

和菓子作り体験

最後にインタビューメンバーで和菓子づくりを体験させていただきました。

職人さんが目の前で作りながら教えてくださり楽しく気軽に挑めて大変楽しかったです。ありがとうございました!

一般コース

内容:干菓子1種+上生菓子3種+お抹茶

費用:3,300円(税込)

*R5.11時点のものです。詳しくはこちらをご覧下さい。

https://www.kanshundo.co.jp/class/

総務委員会取材チーム

リーダー   今村(伏見部会)

アシスタント 荒木(東九部会)

記事作成   竹村(西陣・北野部会)